AIとのかかわり

「AIは記録だけじゃない」介護現場で“もう一歩先”の活用が始まっている

ChatGPTやAIを「記録用ツール」と思っている人は多い。確かに、前回の記事でも紹介したように、介護記録をAIに書かせることで「時間のゆとり」や「心の余裕」が生まれるという変化があった。

でも、AIの可能性はそれだけにとどまらない。今、現場で少しずつ注目されているのが、“記録以外の業務”へのAI活用だ。申し送り、スケジュール管理、教育、報告――人と人をつなぐ「橋渡し役」としてのAIが、介護現場に入り始めている。

AIができること①:申し送りの自動整理

訪問介護の現場では、1日の終わりに「申し送り」をまとめることが多い。しかし、口頭やLINEグループで情報を共有すると、「誰が見たかわからない」「重要な部分が流れてしまう」という課題が残る。

ここで役立つのがAIの“要約機能”。ChatGPTに介護記録を入力して「今日の変化をまとめて」とお願いするだけで、重要ポイントだけを抽出して整理してくれる。

入力:「食事介助。昼食時に食欲低下。半分ほど残す。排泄問題なし。」
出力:「食事量減少(半分程度)。体調観察を継続。」

これなら、次に訪問するスタッフが一目で状況を把握できる。現場では情報の「量」よりも「質」が求められる。AIが情報を“減らしてくれる”ことで、伝達の精度がむしろ上がるのだ。

AIができること②:スケジュールの最適化

訪問介護のスケジュール管理は、現場リーダーにとって悩みの種。「この時間に○○さんの家に行くと渋滞する」「スタッフAとBの訪問先が近いのに、別の時間帯で組んでいる」。

こうした“非効率”をなくすために、AIを使ってスケジュールを自動で最適化する試みが始まっている。Googleカレンダーと連携すれば、「最短ルート」や「重複訪問の回避」をAIが提案してくれる。

たとえば、「Aさん宅の訪問を15分早めると、全体の移動時間が10分短縮できる」といった具合に、AIが“時間の使い方”まで提案してくれるのだ。

AIができること③:教育とコミュニケーション支援

AIの価値が発揮されるもう一つの領域が「教育」だ。新人スタッフが入ってきたとき、先輩が一人ひとりに時間を取るのは難しい。そんなとき、ChatGPTを“教育アシスタント”として使う方法がある。

「利用者さんが拒否的な態度のとき、どんな声かけが良い?」
「初めての入浴介助の注意点を教えて」

こうした質問をChatGPTに投げると、すぐにわかりやすい回答が返ってくる。もちろんAIの答えが完璧とは限らない。だが、方向性を示すことで新人が“自分で考えるきっかけ”をつくってくれる。

また、コミュニケーションが苦手なスタッフが「伝え方」を学ぶツールとしてもAIは有効だ。「こう言えばもっと柔らかく伝わる」といった言い換え例をAIが出してくれることで、現場での人間関係の摩擦も減っていく。

AIができること④:報告書・請求書の下書き作成

行政への提出書類や月次報告書、請求関連の文書。こうした“定型文書”こそAIが得意とする分野だ。現場でよく使う言葉を登録しておけば、ChatGPTが自動でテンプレートを生成。担当者は内容を確認・修正するだけで済むようになる。

報告業務にかかる時間が半減すれば、その分、“人が人に向き合う時間”が増える。書類に追われる介護ではなく、人と向き合える介護へ――AIはその第一歩を後押ししてくれる。

まとめ:AIは「人を減らす」ためではなく「人を生かす」ために

AIが進化するたびに、「人の仕事がなくなる」と言われてきた。けれど、介護業界においてAIが奪うのは“仕事”ではなく、“負担”だ。

記録、共有、スケジュール、教育、報告――これまで“人しかできなかった”とされてきた業務が、AIによって軽くなる。そしてAIが作り出した余白を使って、「もう少しゆっくり利用者さんと話す」「スタッフ同士の振り返りに時間を使う」。そんな、本来の介護の姿に近づいていく。

AIは、人を置き換える存在ではない。むしろ、“人らしさ”を取り戻すためのツールなのだ。

この記事をかいた人

柳田 達哉

にじいろ合同会社 代表。

21歳で株式会社YKT Innovationに入社し、代表・岡田健吾と共に訪問販売から介護業界へ転身。
現在は『ヘルパーステーションにじいろ』の全国展開を目指し、子会社・にじいろ合同会社の代表として活動中。

ソリューション領域を得意とし、自社のSNSやメディアをゼロから構築。
広報〜採用までを自社完結で行い、固定費削減と採用力強化を実現。
その経験をもとに、介護事業者向け業務効率化ツール「ケアGO」を開発にも参画し
介護×ソリューションの形で全国へ広める活動を展開中。

介護・福祉の現場を
「もっと働きやすく、もっと続けやすく」するために。
現場から見える人・お金・時間の課題と気づきを発信しています。

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