介護業界に長くいると、「利用者さんのために」という言葉を何度も耳にします。この言葉に異論を唱える人はほとんどいません。当然です。介護は人の生活を支え、利用者の人生に直接関わる責任の大きい仕事であり、“利用者ファースト”は業界の根本に深く根付いています。
しかし、この「利用者ファースト」が、現場では時に**「スタッフ犠牲ファースト」**のように働いてしまう現状があります。
急な依頼に無理して応じる。
本来休憩を取るべき時間に移動する。
休日に電話が鳴る。
人が足りないから、誰かが無理をして穴を埋める。
「利用者さんのために」という言葉は、正しい。しかし、その“正しさ”を理由に現場のスタッフが疲弊していくようでは、いつか必ず限界が来ます。疲れているスタッフに笑顔を求めることはできませんし、ストレスを抱えた職員が質の高いケアを提供できるはずがありません。
本当に利用者の生活を守りたいなら、私は、先に守るべきはスタッフ自身だと考えます。
目次
1. なぜ今、「従業員ファースト」が必要なのか?
サービスの質を決めるのは“人”です。最新の設備やITツールがどれだけ整っていても、最終的に利用者様と向き合うのはスタッフです。笑顔で話し、小さな変化に気づき、急な体調変化に即座に対応するのもスタッフの役割です。
つまり、スタッフの心身の状態こそが、サービス品質の最重要資源です。
にもかかわらず、業界全体を見ると、
【負のループ】
人材不足が起こる
一人当たりの負担が増加する
スタッフが疲弊し、心に余裕がなくなる
離職者が増加する
さらに人材不足が深刻化する
(1に戻る)
離職が増えるほど業務が回らなくなり、残ったスタッフにしわ寄せがきます。負担が増えれば、気持ちに余裕がなくなり、利用者への対応も機械的になり、サービスの質が低下します。これはシステムそのものを変えなければ、現場の苦しさは続きます。
だからこそ、私たちは“従業員ファースト”の視点を持つ必要があります。
2. 「従業員ファースト」が利用者満足度を上げる4つの理由
一見すると「従業員ファースト」と「利用者ファースト」は相反するように見えますが、実は違います。従業員が満たされると、自然と利用者満足度は上がっていくという、経営として合理的な繋がりがあります。
| 理由 | 内容 |
| ❶ スタッフの笑顔が増える | 介護は感情労働に近い側面があります。スタッフの心の余裕は、利用者の安心感に直結します。心に余裕がある人のケアは、利用者様が受け取る印象を全く変えます。 |
| ❷ 観察力・判断力が向上する | 心身に余裕がないと、小さな変化を見逃しやすくなります。余裕があれば、「食事量が減っていないか」「歩行がふらついていないか」といった微細な変化に敏感になり、事故防止や健康管理に大きく貢献します。 |
| ❸ 離職が減り、関係性の継続性が保たれる | 介護では人間関係の継続が品質に直結します。スタッフが定着することで、利用者様やご家族の不安が解消され、引き継ぎによるミスや情報の抜けを防げます。スタッフが辞めない事業所は、それだけで強いのです。 |
| ❹ 事業所の評判が上がり、紹介が増える | スタッフが満たされた職場は、自然と雰囲気が明るくなり、良い評判が口コミ(利用者同士、ケアマネ同士)で広がります。広告費をかけずとも成長できる、最も強力な戦略となります。 |
従業員ファーストは、単なる“優しさ”ではなく、経営として最も強い、長期的な戦略なのです。
3. にじいろが「従業員ファースト」を掲げる理由
私は、にじいろを始めた時から、「良いサービスを作るのは“仕組み”ではなく“人”である」と一貫して考えています。
具体的な取り組み例:
給与を上げる。
休みを確保する。
責任を1人で背負わせないように仕組み化する。
これを徹底しているのは、単に優しい組織を作りたいからではありません。利用者様にとって、一番安心できる環境を作りたいからです。スタッフが安心して働ける職場こそが、利用者様も安心して任せられる場所となります。
にじいろの一番の強みは「人」です。スタッフの対応力、人柄、誠実さを守るためには、スタッフを大切にする以外に道はありません。
結び:これからの介護は「働く人の幸せ」から逆算する時代
介護業界全体が今、大きな転換期を迎えています。
だからこそ、これからの事業所運営は“働く人の幸せ”から逆算して仕組みを作る必要があります。
働く人が満たされている事業所は、事故が減り、サービスの質が上がり、利用者満足が上がり、紹介が増え、離職が減り、利益率が安定する――全ての流れが良くなります。
“利用者ファースト”は間違いではありません。ただ、その実現方法が変わっただけです。
これからの時代に必要なのは、利用者の前にまずスタッフを大切にする、「従業員ファーストの介護」です。
それが結果として、地域の介護を守り、利用者の生活を守り、業界の未来を守ることにつながります。



