介護業界の経営者にとって、採用は最大のテーマである。どれだけサービスの質が高くても、どれだけ理念が素晴らしくても、「人が集まらない」「人が辞める」状態では、事業は成長しません。
そして現実として、ここ数年で介護の採用難は急速に深刻化しています。求人広告を出しても応募が来ない。来ても面接で来ない。採用しても数ヶ月で辞めてしまう──。
しかし一方で、「応募が止まらない事業所」「常に採用で勝っている事業所」も確実に存在します。
本記事では、そうした“採用で勝てる事業所”が実際に行っている仕組みづくりと、今日からできる改善ポイントを具体的に解説します。
目次
1. 介護業界の採用は「広告」ではなく「経営戦略」である
多くの事業所は「Indeedに出す」「ハローワークに出す」など、“求人広告の話”だけを採用と捉えがちですが、実際はそうではありません。
採用とは、事業所としての魅力を設計し、それを応募者に伝える「経営の仕事」なのです。
採用に強い事業所は、広告を工夫する前に、まず以下の「採用の土台」を徹底的に整えています。
- 給与・賞与・手当の透明性
- シフトの柔軟さ(働きやすさの保証)
- 管理者・スタッフの雰囲気・人間関係(心理的安全性)
- 成長しやすい教育体制
- 事業所のビジョンと方向性
逆に言えば、この土台が弱いまま広告費をかけても、応募者は集まらないし、定着もしません。
採用難の本質は、「応募者が減っていること」ではなく、応募者に選ばれる理由がない事業所が増えていることにあるのです。
2. 今の応募者は“3つの視点”で事業所を見ている
介護業界の応募者行動は、この3年で劇的に変わりました。特に以下の3つの視点で事業所を厳しくチェックしています。
- ① 給与よりも「働きやすさ」を重視する
- ② 事前にSNS・口コミを必ず確認する
- ③ 求人文の「空気感」をものすごく気にする
① 働きやすさ(人間関係・管理者の空気)
「給与が高い」よりも、「怖い管理者がいない」「意見が言いやすい」「変なプレッシャーがない」など、空気感・心理的安全性が何よりも重視されています。
② SNSのチェックは常識
応募者は以下を必ず確認します。
- 事業所のSNS(Instagram・Xなど)
- Googleの口コミ
- ホームページの写真や動画
つまり、情報発信の質と量が、採用の結果を左右する時代なのです。
③ 求人文の“優しさ”が伝わるか
介護の応募者は「読む目」が独特で、文章の“空気”に敏感です。
求人文の中で、
・責任感がある方のみに限ります
・ただし遅刻癖のある方はお断り
・向上心のある方限定
──こうしたプレッシャーを感じさせる文言があるだけで、応募率は一気に下がります。
採用が強い事業所は、求人文の書き方から既に「優しさ」が伝わるよう工夫されています。
3. 採用は「動線設計(ファネル)」で決まる
採用で勝っている事業所は、応募者の動きを“途中で逃がさない仕組み”を作っています。それが採用動線(ファネル)です。
【成功事業所の動線例】
- ハローワーク or Indeedで求人を見る
- SNS(Instagram・X)で雰囲気を確認する
- LP(採用ページ)で働き方や給与を確認する
- LINE公式に登録する(最も重要)
- 面談・見学へ誘導する
ここで最も効果が高いのは、応募者をLINE公式アカウントへ誘導することです。
- 求人の詳細説明を自動で提供
- 見学案内や動画での紹介を配信
- スタッフの生の声やメッセージを届ける
LINEを使うことで、応募者の離脱率が大きく減り、面接につながりやすくなります。今後の採用は、「求人に応募してもらう」のではなく、“LINEに登録してもらう”ことが起点になると理解しましょう。
4. 面接と見学は「応募者に売り込む場」になる
採用弱者の事業所は、面接で「応募者を選ぶ」ことを主軸にしています。
しかし採用強者は違います。面接は応募者に“選んでもらう場”だと理解し、事業所の魅力を売り込んでいます。
だからこそ、面接では次の要素が重視されます。
- 管理者の表情・言葉・姿勢が柔らかいか
- 否定から入らず、まず肯定する文化があるか
- 新人でも安心して働ける教育体制があるか
- 給与・手当・働き方を具体的に説明できるか
さらに重要なのは、見学です。
採用が強い事業所は、見学で次の工夫をしています。
- 30分以内で終わる“ライト見学”を用意
- 現場の雰囲気だけ伝えるミニツアー型
- スタッフがフレンドリーに接する
- 最後に「疑問ありますか?」で終える
応募者は「この人たちと働きたいか」という感情で決めていることを忘れてはいけません。
5. 採用強者の事業所に共通する“5つの極意”
採用で成功している事業所には、ほぼ例外なく以下の共通点があります。
| 極意 | 実践内容 |
|---|---|
| ① 給与と条件が“見える化”されている | 手当の一覧、月収例、具体的なキャリアパスまで詳細に公開する。曖昧な表現を避ける。 |
| ② 管理者の“人柄”がSNSで可視化されている | 今の応募者は「どんな管理者か」で応募を決める。顔出しの発信は信頼度を高める。 |
| ③ 教育体制(AI活用含む)が整っている | 新人が安心して働ける仕組みがあることが、最大の採用力となる。 |
| ④ 応募後のレスが“早い” | 返信速度は信用そのもの。採用弱者ほど返信が遅い。 |
| ⑤ “辞めない人”を増やすことを重要視している | 採用とは「人を取る」仕事ではなく、「人を残す」仕事であるという意識を持つ。 |
6. まとめ:採用が強い事業所は、経営が強い
採用は広告ではなく経営戦略です。強い事業所は、採用に「仕組み」と「継続」を持っています。
- SNSでスタッフ・管理者の雰囲気を伝える
- 給与とビジョンを明確に示す
- 人が辞めない環境を用意する
- 応募者の動線(LINE活用など)を設計する
- 面接で“選ばれる”姿勢を持つ
この5つを徹底した事業所から順番に、採用は強くなっていきます。
介護の未来を変えるのは、採用で勝てる事業所です。
次回は「求人媒体別の応募を最大化するテクニック」を解説します。



