介護現場

訪問介護の計画書、毎月何時間かけてますか?経営者・管理者が知るべき「書類コスト」の現実

訪問介護の経営者や管理者なら、一度は思ったことがあるはずだ。

「この計画書の作成、いったい誰がどれだけ時間を使っているのか」

サービス提供責任者(サ責)が夜遅くまでパソコンに向かっている光景。ご利用者の状態が変わるたびに更新が必要な書類。担当者会議のたびに慌てて準備する資料。それが毎月、何十件と積み重なる。

でも、その「時間コスト」を数字で把握している事業所は、実はほとんどない。今回はその現実を直視してみる。

訪問介護計画書とは何か──なぜ「重い書類」なのか

訪問介護計画書は、介護保険法に基づく法定書類だ。ご利用者一人ひとりのニーズ、目標、具体的な援助内容を記載し、本人や家族への説明・同意のもとで作成・交付しなければならない。

「重い書類」と言われる理由は明確だ。

  • 作成は基本的にサービス提供責任者が担う
  • ご利用者の状態変化や介護度の見直しのたびに更新が必要
  • 担当者会議(サービス担当者会議)の前には必ず準備が必要
  • 内容が不十分だと実地指導で指摘される対象になる

つまり、訪問介護計画書は「やらないわけにはいかない」うえに「時間がかかる」書類の筆頭なのだ。

1件あたり何時間かかっているか──計算してみると見えてくる現実

現場のサ責に話を聞くと、訪問介護計画書の作成にかかる時間は、経験やテンプレートの整備状況によって大きく差がある。ただ、「早い」と言われる人でも30分、「初めて担当する利用者」や「状態が複雑な方」だと1〜2時間かかることも珍しくない。

ここで、一つの試算をしてみよう。

【試算】計画書作成の年間コスト(モデルケース)
項目数値
担当利用者数50名
月あたり更新・新規件数約10件
1件あたり作成時間(平均)約45分
月間合計作業時間約7.5時間
年間合計作業時間約90時間 ★
サ責の時給換算(2,000円)年間180,000円相当 ★
これは「計画書だけ」の試算。居宅サービス計画書の確認、モニタリング記録、報告書なども含めると実際の書類業務時間はさらに大きくなる。

「年間90時間」という数字、どう感じるだろうか。丸2週間以上、サ責の労働時間が計画書作成だけに消えている計算になる。しかもこれは「更新・新規が月10件」という控えめな設定だ。利用者数が多い事業所や、ご利用者の状態変化が多い時期には、この倍以上かかることもある。

「計画書の何が大変か」をサ責目線で分解する

時間がかかる理由は「書く量が多い」だけではない。実際にサ責が感じている負担を分解すると、こんな構造が見えてくる。

①「考える」作業に時間がかかる

計画書には、ご利用者の「生活上の課題」や「援助目標」を文章で記載しなければならない。これが意外と難しい。「入浴介助」という事実は書けても、「なぜその人にとって入浴介助が必要か」「その目標は何か」を言語化するには、アセスメントの読み込みと思考の整理が必要になる。初めて担当する利用者の場合は特に時間がかかる。

②「転記・コピー」の繰り返しが発生する

ケアプラン(居宅サービス計画書)の内容を訪問介護計画書に落とし込む作業が必要だ。これ自体は当然の手順だが、ソフトや書式によっては手作業でのコピーが発生し、転記ミスのリスクも生まれる。「ケアプランが変わったのに計画書が古いまま」という事態も起こりやすい。

③「完成形のイメージ」が人によってバラバラ

経験豊富なサ責と、就任して間もないサ責では、計画書のクオリティに大きな差が出やすい。「どこまで書けばいいのか」「この表現でいいのか」という迷いが、新人サ責の作業時間を長くさせる原因だ。教える側のサ責もその指導に時間を取られる。

④「更新のトリガー」が多い

介護度の変更、ご利用者の入退院、担当者会議の実施──これらが起こるたびに計画書の見直し・更新が必要になる。利用者数が増えるほど「更新待ちの計画書」が積み上がり、気づけば「古い計画書でサービスが続いている」状態になるリスクもある。

経営者が見落としがちな「見えないコスト」

計画書の作成コストを「サ責の仕事のひとつ」として処理していると、見えなくなるコストがある。

残業コストの見えない蓄積

日中はご利用者への同行やスタッフ調整に追われ、計画書作成は「時間外にやるしかない」という状況になりやすい。残業代として顕在化することもあるが、「サービス残業」として埋もれているケースも少なくない。どちらも事業所にとって健全ではない。

「サ責が辞める」リスクへの連鎖

書類業務の負担がサ責の疲弊につながり、それが離職の引き金になる。サ責が一人辞めた場合の採用・引き継ぎコストは、控えめに見ても数十万円規模だ。「書類が多くて嫌になった」という理由での離職は、単なる人材損失ではなく、業務設計の問題として受け取る必要がある。

実地指導リスクとしての書類品質

時間に追われて作成した計画書は、内容が薄くなりやすい。「目標が具体的でない」「利用者の状態と援助内容が一致していない」といった指摘は、実地指導でよく見られるパターンだ。最悪の場合、返還指導につながることもある。書類の質は、リスク管理の問題でもある。

「時間をかけるのが当たり前」という前提を疑う

ここまで読んで、「うちの事業所も似たような状況だ」と感じた方も多いのではないだろうか。ただ、ここで立ち止まって考えてほしいことがある。

「計画書の作成に時間がかかるのは仕方ない」という前提は、本当に正しいのか?

テンプレートの整備、文章の定型化、入力補助ツールの活用──これらは「すでにやっている」という事業所もあるだろう。だが、まだそのステージにすら到達していない事業所も多い。そしてテンプレートや定型文の整備だけでは限界があるのも現実だ。

最近、この課題に対して「AI活用」という選択肢が現実的になってきた。ご利用者の情報を入力するだけで、計画書の下書きを自動生成する仕組みが、すでに一部の事業所で動き始めている。

「AIが計画書を書く」という発想に抵抗を感じる方もいるかもしれない。次回以降の記事では、その実態と、現場で起きている変化について詳しく取り上げていく。

まとめ──今日から始められる「可視化」

まず自事業所で取り組めることは、計画書作成にかかる「実際の時間」を記録してみることだ。1ヶ月間、サ責に「計画書1件あたりの作成時間」を記録してもらうだけで、見えなかったコストが数字として見えてくる。

その数字が、次のアクションの根拠になる。

この記事のポイントを整理すると:

  1. 訪問介護計画書の作成は、年間換算で大きな時間コストになる
  2. 「書く」だけでなく「考える・転記・判断する」作業が負担の本体
  3. 書類コストはサ責の離職リスク・実地指導リスクに直結する
  4. 「時間がかかるのは当たり前」という前提を疑うことが第一歩

次回予告

「サービス提供責任者が辞める本当の理由は『書類』だった」

書類業務と離職の関係を、現場の声と構造から深掘りします。

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