目次
導入文
政府は、深刻な人手不足と他産業との賃金格差を是正するため、来年度に介護報酬の臨時改定を実施する方針を固めました。これは、現場で働く介護職の処遇改善を最優先に進めるための大きな一歩です。新たな経済対策の案が、18日に開催された自民党の政調全体会議に提示されています。
しかし、単なるニュースとして消費するわけにはいきません。この臨時改定は、私たちの訪問介護事業の経営に直接関わる重大なテーマです。
本記事では、この臨時改定の背景にある深刻な状況を再確認しつつ、経営者が特に注意すべき「3つの焦点」と、来るべき賃上げ時代に勝ち残るための経営戦略について、深く掘り下げて解説します。
1. 臨時改定の背景:なぜ今、政府は「待ったなし」の判断をしたのか
政府が介護報酬の臨時改定という異例の措置を取る背景には、以下の二つの深刻な理由があります。
理由① 介護現場の人手不足の深刻化
政府は、介護現場の人手不足が深刻なことを考慮しています。利用者様のニーズが増大する一方で、訪問介護の現場では必要なヘルパーを確保することが極めて困難な状況が続いています。
理由② 介護職の賃上げが他産業に遅れをとっている
政府は、介護職の賃上げが他産業に遅れをとっていることなどを考慮しています。介護職の給与水準が他産業に比べて低いままであるため、これが人材流出の大きな原因となっています。
政府は、他職種と遜色のない処遇改善に向けて、来年度の介護報酬改定で必要な対応を行う考えを示しました。また、障害福祉分野についても、介護分野の対応に沿って賃上げなどを行うとしています。
2. 経営者が注視すべき「3つの焦点」:今後の議論の行方
今回の臨時改定の発表は第一歩に過ぎません。今後の焦点は大きく3つあり、これらの論点の行方が、各事業所の経営に決定的な影響を与えます。
焦点① 処遇改善を実現する賃上げの「規模」
最も重要なのが、賃上げの規模です。これが不十分だと、また落胆が広がる可能性があります。他産業との賃金格差は埋まらず、人材の流出にも歯止めがかからないためです。
[経営者の視点] 賃上げが「焼け石に水」とならないよう、他産業と遜色のない処遇改善につながる具体的な水準が示されるかどうかが鍵となります。実質的な手取り増加につながるシンプルな仕組みが求められます。
焦点② 施策を幅広く届ける「賃上げの対象」
賃上げの対象となる職種をどこまで広げるかという点も大きな課題です。訪問介護分野では、サービス提供責任者や訪問介護員(ヘルパー)の他、居宅介護支援のケアマネジャーなど、人手不足の職種が多く、施策を幅広く届けることが政策上の大きな課題となっています。
[経営者の視点] 特定職種に限定されず、サービス提供に不可欠な全職種に施策が幅広く届くことが、組織全体の士気向上につながります。今回の改定で人手不足の職種全体への対応が行われるかどうかが注目されます。
焦点③ 経営環境維持のための「事業所への支援の有無」
物価高騰により、事業所の経営環境は厳しさを増すなか、事業者団体は賃上げ以外の補助なども行うよう強く求めており、こうした要望が通るかどうかが注目されます。
[経営者の視点] 賃上げ財源の確保と、物価高騰によるコスト増加への対応は、切り離して議論されるべきです。この要望が通らなければ、事業所の経営はさらに厳しくなり、サービスの質の維持が困難になる可能性があります。
3. 臨時改定を見据えた訪問介護経営者の「攻め」の戦略
賃上げは避けられない流れであり、これを「コスト」と捉えるか、「成長への投資」と捉えるかで、事業の未来は変わります。
戦略① 採用ブランディングの強化
賃上げの具体的な内容が固まり次第、これを最大限活用した採用ブランディングを構築しましょう。単に給与を上げるだけでなく、「〇〇社のスタッフは業界トップクラスの給与と待遇」というイメージを定着させることが、優秀な人材獲得の最大の武器となります。
戦略② 業務効率化と生産性向上(DXの徹底)
賃上げは人件費の上昇を意味します。これを吸収し、利益を確保するためには、生産性の向上は必須です。
書類作業の電子化
AIを活用したシフト最適化
タブレット端末を使った記録入力
など、非効率な業務を徹底的に削減し、ヘルパーが「利用者様へのサービス提供」に集中できる環境を整備することが、質の高いサービスと高収益性の両立を可能にします。
戦略③ 経営のリスクヘッジと多角化
介護分野だけでなく、障害福祉分野への対応も視野に入れることで、事業のリスクヘッジにつながります。また、居宅介護支援や地域連携の強化など、訪問介護の枠を超えた収益源を確保することが、持続可能な経営基盤を築きます。
結論:危機を好機に変える準備を
今回の介護報酬臨時改定は、訪問介護業界にとって大きな転機となるでしょう。制度への期待と同時に、経営の厳しさから「崩壊してまう」という切実な声もあります。私たちは、国の政策に頼るだけでなく、この変化を「質の高い人材を集める好機」と捉え、攻めの経営戦略を打ち出す必要があります。
他職種と遜色のない処遇改善に向けた、実効性のある施策が実現することを強く期待し、今後の政府の発表に注目しつつ、自社の経営体制をいち早く強化していきましょう。



