介護現場

AIに介護記録を書かせるのは『サボり』か? 現場の心理的ハードルを突破する3つのステップ

介護現場に潜む「手書き信仰」という見えない壁

「AIで介護記録を自動化しませんか?」 そう提案したとき、現場のリーダーやベテランスタッフから、言葉にできない「抵抗感」を感じたことはないでしょうか。

「記録は利用者の顔を思い浮かべて書くものだ」 「楽をすることを覚えると、細かな変化に気づけなくなる」 「ITに頼るのは、仕事をサボっているのと同じではないか」

こうした声の根底にあるのは、介護職としての強い責任感と、これまで現場を支えてきたという自負です。しかし、この「真心=手書き」という美しい価値観が、今、介護現場を構造的な疲弊に追い込んでいるとしたらどうでしょう。

本記事では、訪問介護経営者であり、介護特化型AIの開発者でもある筆者が、現場が抱く「サボり」という罪悪感の正体を解き明かし、心理的ハードルを突破して真の「利用者ファースト」を実現するための3つのステップを解説します。


1. なぜAI利用を「サボり」と感じてしまうのか?

「時間=愛情」という呪縛

日本の介護現場には、長く「手間をかけることこそがサービスの質である」という考え方が根付いてきました。掃除、調理、入浴介助、そして記録。これらすべての工程に時間をかけることが、利用者への誠実さの証だと信じられてきたのです。

そのため、AIを使って記録時間を「5分から30秒」に短縮することは、利用者へ捧げるべきエネルギーを抜き取ったような、後ろめたさを生んでしまいます。

「作業」と「ケア」の混同

最大の誤解は、「記録という『作業』を効率化すること」を、「ケアという『営み』を簡略化すること」と同一視している点にあります。

本来、記録は「手段」であって「目的」ではありません。しかし、日々山積する書類に追われる中で、いつの間にか「記録を終わらせること」がゴールになってしまっている。この矛盾こそが、現場の幸福度を下げている真犯人です。


2. 心理的ハードルを突破する3つのステップ

現場にAIを浸透させるには、スペック(機能)の説明ではなく、ベネフィット(価値)の再定義が必要です。

ステップ①:記録の目的を「記憶」から「分析」へアップデートする

これまでの記録は、単なる「実施報告」や「法的な証拠」としての側面が強すぎました。 「AIに書かせる」ことの真の価値は、人間が「思い出す作業」から解放され、「そのデータを使って次に何をするか」というクリエイティブな判断に集中できることにあります。

  • 人間: 利用者の表情や、声のトーンの変化を感じ取る。

  • AI: その断片的な情報を整理し、専門的な文章に整え、過去の傾向と比較する。

「AIが書くから心がこもっていない」のではなく、「AIが整理してくれるから、人間がより深く利用者の変化を考察できる」という視点への転換を促します。

ステップ②:下を向く15分を、上を向く15分に変える「時間の再定義」

ある訪問介護スタッフの事例です。彼女はサービス終了後の15分間、ステーションや車内で必死にスマホや書類を睨んで記録を書いていました。その間、彼女の頭の中に利用者の笑顔はありません。「早く書き終えて次の家に行かなければ」という焦りだけです。

これをAIに任せることで生まれた「余白」を、どう使うか。

  • 利用者の手を握る時間。

  • 「また来週ね」と目を見て挨拶する時間。

  • あるいは、自分自身の心を整え、次の現場へ最高のコンディションで向かう時間。

「サボって楽をするため」ではなく、**「プロとして最高のパフォーマンスを維持し、利用者に温もりを返すため」**のAI活用であることを、経営層が明確にメッセージングする必要があります。

ステップ③:小さな成功体験による「信頼の構築」

最初からすべての記録をAI化しようとすると、拒絶反応が起きます。 まずは、最も苦痛を感じている「定型的な長文作成」や「ケアマネジャーへの報告書案」など、補助的な部分からAIを導入しましょう。

「あれ、あんなに苦労していた報告書が、たった1分の確認で終わった」 この小さな感動が積み重なったとき、現場のスタッフは自ら「もっとここに使えないか?」と創意工夫を始めます。AIは奪う存在ではなく、**自分たちの専門性を支える「頼もしい助手」**であると認識してもらうのです。


3. 「手書き」を続けることが、実は最大のリスクになる

厳しい言い方かもしれませんが、AIという選択肢がある中で、あえてアナログな手法に固執し続けることは、利用者の不利益につながる可能性があります。

  • 情報の鮮度: 記憶が曖昧な状態で書かれた記録は、事実を歪める。

  • 共有の遅れ: 手書きメモがデジタル化されるまでのタイムラグが、緊急時の判断を遅らせる。

  • スタッフの離職: 事務負担によるバーンアウトは、結果的に利用者へのサービス停止を招く。

「真心」を理由にテクノロジーを遠ざけることは、今の深刻な人手不足の中では、組織を、そして利用者を守りきれない「無責任」になりかねないのです。


AIは、私たちが「人間」に戻るための道具

介護の仕事の本質は、AIには代替できない「感性」や「共感」の世界にあります。 しかし、これまでの私たちは、その本質を支えるための膨大な「作業」に忙殺され、人間らしいケアをする余裕を失っていました。

AIに記録を書かせることは、決してサボりではありません。 むしろ、「作業」をAIという道具に返し、人間が「ケア」という誇り高い仕事を取り戻すための、勇気ある決断です。

「手間はAIに。あなたはケアに。」 この言葉が当たり前になる未来を、私たちは今、現場の皆さんと共に作っていきたいと考えています。

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